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あのノーベル賞科学者が安倍政権 の軍学共同政策を批判! 軍事に手など貸す
ものか! 戦争協力への動員はもう始まっている! 水井多賀子

2015.10.06 Litera

http://lite-ra.com/2015/10/post-1559.html

『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)

大村智・北里大特別栄誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞しおめでたムードが
広がるなか、本日18時45分(日本時間)には物理学賞が 発表される。昨年のト
リプル受賞につづいて日本人の受賞に注目が集まるが、ここで、あるノーベル受
賞者の言葉を紹介したい。
〈ノーベル物理学賞や化学賞は、将来的に人類の発展に著しく貢献するであろう
と評価された科学技術、そしてその開発に寄与した科学者に与えられる もので
す が、一方でその技術が戦争で使われる大量破壊兵器の開発に利用されてきた
のも事実です。(中略)ノーベル賞を授与された研究は、人類の発展の ために
も殺人兵器にも使用可能という諸刃の技術と言ってもいいでしょう〉

このように述べるのは、2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英・京都大
学名誉教授。ノーベル賞受賞記念の講演でも自身の戦争体 験にふれ、さらに
「安全保障関連法に反対する学者の会」にも参加し、安倍政権の暴走に警鐘を鳴
らしてきた人物だ。

そんな益川氏は、今年8月に『科学者は戦争で何をしたか』(集英社新書)を上
梓。科学者がどのように戦争に加担してきたかということや、 現在の安倍政権
が進める戦争できる国づくりに、科学者としていかに抵抗するべきかを綴っている。

そもそも、ノーベル賞設立を遺言したアルフレッド・ノーベルはダイナマイトの
発明者であり、その発明品の殺傷力から彼は「死の商人」と呼 ばれた。いわば
ノーベル賞は“不名誉なレッテルに傷ついたノーベルの名誉挽回”のために生まれた。

しかし、こうした経緯で誕生したノーベル賞も、その受賞者たちの功績は戦争の
道具となってきた。たとえば、放射能の発見で物理学賞を受賞 したピ エール・
キュリーは受賞記念講演で「ラジウムが犯罪者の手に渡ると、非常に危険なもの
になるでしょう」とあらかじめ警告し、アインシュタイン は日本への原 爆投下
後、深い反省から核廃絶活動に取り組んだことは有名だ。

だが、その一方で“愛国者”として積極的に国策に協力したフリッツ・ハーバーの
ような科学者もいる。毒ガスを開発したハーバーはアンモニ アの合成 法でノー
ベル化学賞を受賞したが、その後も〈化学兵器の開発に没頭〉し、結果、それは
ナチスによってユダヤ人の虐殺に使用された。しかも、 ハーバーはユダ ヤ人で
あり、自身の研究が同胞の殺戮に使われた事実を前にしても、〈死ぬまで一度も
自責の念を表したことはなかった〉という。

といっても、ハーバーのような熱心な愛国者ではない科学者でも、戦争になれば
〈国策を支援する組織に半強制的に組み込まれてしまう〉こと になる。それ
に、科学者の意見は政策決定に反映されることはない。原爆開発にかかわりつつ
も、日本への投下に反対した物理学者 のレオ・シラードの声がアメリカ政府に
無視されたように。

〈戦時下における科学者の立場というのは、戦争に協力を惜しまないうちは重宝
されるものの、その役目が終われば一切の政策決定から遠ざけられ、蚊 帳の外
に 置かれます。国策で動員されるということはそういうことです。「便利なも
のをつくってくれてありがとう」で終わり。どんな軍事兵器もそれが完 成した
時点で 研究者、開発者の手から離れ、一〇〇パーセント政府のものとなりま
す。そして、それがどんな危険な使い方をされようと、開発者は手を出せなく
なるのです〉

だからこそ、戦後、 世界中の科学者たちは手を結び、ノーベル平和賞を受賞し
た「パグウォッシュ会議」をはじめとして核兵器の廃絶を訴える平和運動を展開
してき た。しかし、そ うした科学者たちの声明や宣言は〈(各国の首脳陣が)
どこまで真剣に目を通してくれているのかは定かではない〉。とくに、〈日本の
首脳からの 返事くらい 「味もそっけもない」ものはなかった〉ようで、〈外務
省の担当者から受け取り確認の返事が来るだけで、世界で唯一原子爆弾の被害を
受けた国の 反応とは思え ない〉ものだったという。

事実、科学技術の軍事転用は繰り返された。ベトナム戦争時に暗躍したアメリカ
国防総省による「ジェーソン機関」という秘密組 織では、ノーベル受賞者を含
むエリート科学者が集められ、〈アメリカ軍兵士の犠牲を減らし、ベトナムの
人々を有効かつ速やかに殺すか、そのノ ウハウを提 供〉した。彼らはゲリラの
浸透を防止する電子バリヤーや新兵器を使用した暴動鎮圧技術などを研究する一
方、殺害したベトコンの正確な人数を把 握したいとい うアメリカ軍将校に、
〈殺したベトコンの左耳を切り取って針金に刺し、兵士に持ってこさせれば〉い
いというアイデアさえ出したという。このこ とを知った益 川氏は〈まさに科学
者の精神動員だ〉〈ここまで戦争に取り込まれ、非道な殺人のアイデアを出せる
状態というのは、明らかに洗脳されたとしか思えません〉と 綴る。

ここまで読んで、「科学者の精神動員なんて、いまの時代そんなことさせないで
しょ?」と楽観的に捉える人もいるかもしれない。だが、益川 氏は〈むしろ、
現代の精神動員は、実に巧妙に金と権力を使って科学者たちを取り込んできてい
ます〉という。

その一例が、安倍政権が進める「軍学共同」「産学協同」だ。益川氏は〈大学や
民間の研究者の取り込みは、戦前・戦中の強制的な科学者の動員 とは違います
が、資金援助というエサで研究者を釣るのは、ある意味間接的な動員と言えるの
ではないでしょうか〉と危惧する。

たとえば、これまで軍事研究を禁止する方針を出してきた東京大学も、今年に
入って軍事研究を一部容認したと報道された。これは2013年 に安倍政権が閣議
決定した大学の軍事研究の有効活用を目指す国家安全保障戦略を踏まえたもの、
と見られている。

ここで立ちはだかるのは「デュアルユース」という問題だ。ロボット開発やド
ローン、小惑星探査機「はやぶさ」などの技術は、一般的に考え ればわた した
ちの生活に役立つものと考えられているが、これらの技術は当然、軍用にも利用
できる。つまり、軍事研究解禁の問題も〈デュアルユースが可 能な技術を軍 事
利用と決めつけず、もっとオープンに検討してもいいのではないか、という立場
を取ったのではないか〉と見ていると益川氏はいう。

しかし、だからといって「デュアルユースの時代だから仕方がない」と益川氏は
科学者の責任を放棄しているわけではない。“自分の発明が兵 器に応用 される
可能性を、最初に理解できるのは発明した本人にほかならない”のだから、その
ことをいかに自覚するかが問われているのだ。実際、自覚することで軍事 協力
をすり抜けた先人もいる。そのひとりが、ノーベル賞受賞者で、戦時中に電波兵
器の研究に動員されていた朝永振一郎氏だ。
朝永氏が戦時中に書いた論文を読んだときの感想を、益川氏は「はたと膝を叩き
たい思いに駆られました」と表現する。というのも、〈電波の出力の関 係を解
析する部分を、限りなく一般的なところでまとめ、核心部分をうまくごまかして
いた〉からだ。

〈表面上は軍事協力に協力して成果を出している振りをしながら、肝心なところ
は手渡さず、毒にも薬にもならない研究をして、「はい」と涼しい顔で 論文を
提出していた。しかし、量子力学を専門にしている人間が見れば、明らかに「意
図的にこのレベルに抑えているな」ということが分かる。(中 略)軍部に自分
の研 究を渡さないという意志を密かに貫かれたのだと思います。私は、それこ
そが本来の科学者の知恵だと思います〉

軍事に手など貸すものか。──こうした強い意志を引き継ぐ人びともいる。益川氏
も所属する名古屋大学は、学生と教員たちが軍事協力をしないと誓っ た「平和
憲章」を掲げている。だが、昨年、国会で三宅 博議員(当時・日本維新の会、
現・次世代の 党)はこの平和憲章を“国立大として交付金を受けているのに、軍
学共同を拒否する憲章を堅持しているのは何事か”と非難した。こうした意見は
三宅議員に限らず、ネット上でもよく見られるものだ。益川氏はこのようなムー
ドを、〈国からお金をもらっている国立大学の研究員なら、四の五の言わずに
国のために協 力しろという態度にも、周囲はそれ程騒ぎもしない。何やら空恐
ろしい感じがします〉と懸念する。

〈ブラックボックス化する科学の世界で、我々科学者は、知らず知らずのうち
に、どこかで軍事研究に加担させられている。そんな時代が到来していま す〉

〈科学者同士、平和問題や社会問題に目を向ける努力を意識的にやらなきゃいけ
ない。仲間同士で、何が今危険なのか、とことん議論することも必 要。自分の
研究だけ安泰ならいい、儲かればいいなどと言っていると、簡単に取り込まれて
しまいます〉

理性を働かせれば、人類は100年後も200年後も戦争せずにいられるはず──。そう
益川氏が語るのは、人間の英知を信じているからなの だろう。 科学は本来、平
和のために使われるべきという原点を、とくに科学者は忘れてはいけないのだ。
益川氏は、本書でこのように語りかけている。

〈科学と軍事が密接に結び付いている現代こそ、科学者の想像力、人間としての
生き方が問われるのだと思います〉
(水井多賀子)





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